こんにちは、パワーリフティングコーチの大石です。
ジムに通い始め、バーベルを使ったスクワットやベンチプレス、デッドリフト(いわゆるBIG3)の重量が伸びてくると、誰もが「もっと強く、もっと重い重量を挙げたい」と願うようになります。インターネットやSNSが発達した現代では、世界中のありとあらゆるストレングスプログラム(筋力向上計画)にアクセスすることが可能です。
その中で、短期間で劇的に重量が伸びると噂される「スモロフJr(Smolov Jr.)」というプログラムを目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
「1ヶ月でベンチプレスが10kg伸びた」「スクワットの自己ベストを大幅に更新した」といった魅力的なレビューが並ぶこのプログラムですが、私はBIG3トレーナーとして、初心者がこのプログラムに手を出すことに対して強く警鐘を鳴らします。
今回は、なぜスモロフJrが初心者の入門プログラムに適さないのか、そして初心者が本当に選ぶべき安全かつ効率的なトレーニングの進め方について、理論的根拠をもとに解説します。
■ スモロフJrプログラムとは何か?
スモロフJrプログラムとは、もともとロシア(旧ソ連)の著名な重量挙げ・パワーリフティングのマスターコーチであるセルゲイ・スモロフ(Sergey Smolov)氏が開発した、悪名高き「スモロフ・スクワット・ベースサイクル」を、他の種目(主にベンチプレスなど)に応用できるように3週間の短期集中型にアレンジしたモディファイ版プログラムです。

このプログラムの最大の特徴は、驚異的な「高頻度」と「高ボリューム」にあります。
一般的には週に4回、以下のような構成でターゲットとする1種目を徹底的に追い込みます(%は1RM=1回ギリギリ挙げられる最大重量に対する割合です)。
・1日目:70% × 9レップ × 4セット
・2日目:75% × 7レップ × 5セット
・3日目:80% × 5レップ × 7セット
・4日目:85% × 3レップ × 10セット
これを3週間、毎週少しずつ重量を上乗せ(漸進性過負荷)しながら強制的に遂行し、4週目にマックス測定を行います。旧ソ連のウエイトリフティングやパワーリフティングの国家代表レベルの選手たちが用いていた「高い疲労と引き換えに、短期間で爆発的な適応を狙う」というエリート向けのピリオダイゼーション理論がベースとなっています。
週4日スクワットをする・・・それだけでも恐ろしいと思いませんか?
■ レベル別トレーニングプログラムの考え方
トレーニングプログラムを正しく選ぶためには、まず「トレーニング習熟度(レベル)」の定義を理解する必要があります。運動生理学やストレングス理論(NSCAなどの基礎理論)において、レベルは以下のように分類されます。

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初心者(Beginner / Novice) トレーニングごとの「単一のセッション」から十分に回復し、次のセッション(例えば2日後)にはすでに前回の重量を上回る適応(筋力向上)が起こる段階です。一般的には数日から1週間単位で重量を伸ばしていくことが可能です。
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中級者(Intermediate) 1回のセッションからの回復だけでは適応が追いつかなくなり、1週間(マイクロサイクル)という単位で疲労と負荷をコントロールすることで、週単位、あるいは隔週単位で筋力を向上させていく段階です。
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上級者(Advanced) さらに複雑なピリオダイゼーション(期分け)が必要となり、1ヶ月〜数ヶ月(メゾサイクル)という長いスパンで疲労を蓄積・抜く(ディロード)作業を繰り返しながら、段階的に自己ベストを更新していく段階です。
スモロフJrは、この分類において完全に「中上級者向け」、あるいは特定の大会に向けて限界まで出力を引き出すための「ピーキングプログラム」に位置づけられます。
■ なぜスモロフJrは初心者の入門プログラムに適さないのか?
初心者がスモロフJrを選ぶべきではない理由は、主に3つの明確なリスクと理論的背景がありますがまず大前提として
セット数が多く時間がかかりすぎる。
どうしてもスモロフjrを完遂したいなら

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フォームの未成熟による怪我のリスク スモロフJrでは、疲労が極限まで溜まった状態で80%〜85%という高重量を、5セットや10セットといった大量のセット数こなさなければなりません。初心者はまだ、どのような状況でも狂わない「強固な運動パターン(フォームの自動化)」が身についていません。疲労によってフォームが崩れた状態で強引にバーベルを動かし続ければ、関節や腱(特に肩や肘、腰、膝)に微細なストレスが蓄積し、高確率で深刻な怪我を招きます。
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激しすぎるオーバートレーニング(過剰な疲労蓄積) 運動生理学における基礎理論「漸進性過負荷の原則(Progression Principle)」は、負荷を段階的に増やすことを定めています。しかし、スモロフJrの負荷の跳ね上がり方は、初心者にとっては「漸進的(段階的)」ではなく「急進的」すぎます。初心者の神経系や結合組織(腱や靭帯)は、このような高頻度・高体積の負荷に耐える準備ができていません。
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「初心者ボーナス」の無駄遣い 初心者の最大の強みは、「少ないボリューム(セット数)でも十分に筋肉がつき、筋力が向上する」という点にあります。週に1〜2回、基本に忠実な数セットを行うだけで十分に伸びる段階であるにもかかわらず、わざわざ怪我のリスクを冒してまで週4回の地獄のようなボリュームをこなす必要は全くありません。より少ないリスクで得られるはずの成果を、過剰な負荷で相殺してしまうのは非常にもったいない選択です。
■ あなた(初心者)が今やるべきトレーニングプログラム
BIG3トレーニングの初心者が本当に選べきなのは、スモロフJrのような「激しい短期プログラム」ではなく、シンプルかつ着実に基礎を築くことができる「線形進行型(リニアプログレッション)」のプログラムです。
世界的に初心者のバイブルとして推奨されているプログラムには、以下のようなものがあります。
・Starting Strength(スターティングストレングス)
・StrongLifts 5×5(ストロングリフト 5×5)
これらのプログラムの根拠は、非常にシンプルです。 週に3回ジムに通い、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトなどの基本種目を「5レップ × 3セット」あるいは「5レップ × 5セット」という、フォームを維持しやすい適切なボリュームで行います。そして、前回のトレーニングで成功したら、次のトレーニングではバーベルの重量を2.5kg(あるいは最小単位)だけ増やす、という作業を愚直に繰り返します。
これによって、以下のメリットが得られます。
・毎回フレッシュな状態でトレーニングに臨めるため、正しいフォームが定着しやすい
・神経系や筋肉、関節が無理なく段階的に強化される
・自分の限界値(1RM)を安全に見極め、中級者へとステップアップするための強固な土台ができる
強くなるための最短ルートは、一見遠回りに見える「基本の継続」以外にありません。
■ プログラムを学ぶのにオススメ書籍
強い身体を作るためには、ただがむしゃらに重いバーベルを担ぐだけでなく、正しい知識を学び「クレバーな知能」を持つことが非常に重要です。ストレングストレーニングにおいて、知性は挙上重量を安全かつ確実に高めるための最強の武器になります。
私が日頃の指導のベースにしているのが、こちらの専門書です。ぜひ読んでみてください!
肉体改造のピラミッド トレーニング編
■ パーソナルトレーニング・オンラインコーチングの活用
ここまでプログラムの理論についてお話ししてきましたが、どれほど優れたプログラムを選んだとしても、それを正しく実行できなければ効果は半減し、怪我のリスクは残ります。
特にBIG3トレーニングにおいては、以下のような壁にぶつかる初心者が後を絶ちません。 「自分のフォームが本当に正しいのか分からない」 「重量が伸び悩んだとき(プラトー)、どこを修正すればいいか判断できない」 「適切な挙上スピードや、身体のタイトさ(緊張感)の作り方が掴めない」
こうした悩みを解決するために、プロのパーソナルトレーニングやオンラインコーチングを活用することは非常に有意義な投資となります。
私のようなパワーリフティングコーチやBIG3の専門トレーナーは、単に「頑張れ」と応援する係ではありません。あなたの骨格や柔軟性(関節可動域)に合わせた最適なフォームの指導、怪我を未然に防ぐためのエラー動作の修正、そしてあなた個人の回復力に合わせた「パーソナライズされたプログラムの構築」を提供します。
近くに信頼できる指導者がいない場合でも、動画を用いたオンラインコーチングによって、客観的なフォームチェックと科学的根拠に基づいた進捗管理を受けることが可能です。
最初の1歩を正しいプロの目でガイドしてもらうことは、その後の1年、3年、あるいは一生のトレーニングライフにおける怪我を減らし、生涯の自己ベストを最大化するための最も誠実でパワフルな手段です。
まずは基本を大切に。焦らず、一歩ずつ強い身体を作っていきましょう。
【出典・参考文献】 ・Pavel Tsatsouline, Fabio Zonin (2019): “StrongFirst Reload – Your Barbell Strength Blueprint”, StrongFirst, Inc. (ピリオダイゼーションおよび初心者のためのリロードサイクル、プログレッション理論) ・Andy Bolton, Pavel Tsatsouline (2012, 2022): “Deadlift Dynamite: How to Master the King of All Strength Exercises”, StrongFirst, Inc. (BIG3フォームのテクニックおよび初年度のトレーニング計画) ・Mark Rippetoe (2011): “Starting Strength: Basic Barbell Training 3rd Edition”, The Aasgaard Company. (初心者における線形進行プログラムの有効性について)
最後までお読み頂きありがとうございました!
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